日本司法福祉学会ニュースvol.36
発行 2014年11月21日
1.―「子どもの暴力」テーマの大阪大会を終えて
日本司法福祉学会長 加藤幸雄
大会の会場となった追手門学院大学のメイン会場は、目の前に大阪城の全景が浮かび上がる最高のロケーションでした。それにも増して、会場を埋め尽くした学会員の積極的な参加態度によって、大阪城が目に入らないくらいの盛り上がりを見せました。また、追手門学院大学をはじめとして、大阪大会を準備したみなさんの気持ちのよい応対が、より一層大会への参加意欲を促進させたことは間違いないと思います。改めて、実行委員メンバーと学生たちに深く謝意を表明いたします。
大会シンポジウムは、「子どもの暴力が意味するもの――司法福祉の視座」と題して、福祉、司法、小児医療の立場から、実務を踏まえた提言をいただきました。ここでは、「被害と加害の相対性」(岩佐氏)、「性教育をすれば、性暴力への予防になるのか」(石澤氏)、「暴力手段でしかコミュニケートできない場合への理解と対応能力が鍛えられていないこと」(小谷氏)、「児童虐待への毅然とした対応と、親との関係を大切にすること」(前橋氏)など、子どもの利益に即した多角的な視点と実践方法が提示されたのではないでしょうか。
大会初日のプレシンポでは、釜山家庭法院少年部部長判事に、子どもの暴力に向き合う韓国の取り組みを紹介していただきました。「関係性」「持続性」「公然性」を有する校内暴力に対して、2004年「学校暴力予防及び対策に関する法律」が施行され、事前予防と再発防止にどう取り組まれたかが報告されました。日本での校内暴力の歴史や「いじめ防止対策推進法」との関係も考えることができ、大変興味深い内容でした。
第2日目の自由研究発表は充実した内容でした。多様な職域から焦眉の課題が提示され、率直な意見交換ができたようです。私が出席した第1会場では、負債処理や成年後見にとどまらず、家族丸ごと福祉的な支援の必要ケースが多いという司法書士の稲村氏の報告、判決前調査の充実の必要性を実践例から紐解いた加藤報告、ドイツ、フランスにおける高齢受刑者政策から日本が学ぶべきことを整理した鷲野報告、医療観察法の下での多職種チームによる支援の有効性を検証した大屋報告、児童虐待死事例の裁判記録を用いて事例検証を行うことの優位性を総合考察した斎藤報告と、どれも聞きごたえのあるものでした。
第2会場では、触法障害者の「入口支援」、矯正施設退所障害者の地域生活支援の追跡調査、矯正施設退所者の経済的基盤の実態と支援、矯正施設退所者支援の地域移行支援対象施設拡大に伴う課題と、主に矯正施設入退所と地域生活定着支援が課題となりました。第3会場では、BBS実践、児童自立支援施設におけるセクシュアルマイノリティの考察、児童養護施設の児童間暴力、矯正施設退所者の社会福祉施設の受け入れの実態報告と多彩なものでした。
分科会は、継続的に検討が行われているものに加えて、「子どもの暴力」の視点からの課題提示を含め、7か所に分かれて議論がされました。児童自立支援施設の「児童間暴力」、判決前調査の可能性、DV被害者支援における子どもの視点と家族支援、少年矯正施設における暴力対応、性加害行為のある知的障がい者支援、児童福祉施設と学校との連携におけるSSWの視点、学校での紛争解決を修復的司法から学ぶ、というのがその内容でした。また、今回は、パネル展示もあり、茨木BBS会ほか学会関連の4団体の報告がありました。
次の第16回大会は、早稲田大学で行われます。すでに実行委員会がスタートしています。司法福祉の外延が広がるなかで、司法と福祉のコラボレーションのあり方がより深められる大会となることを願っています。
2.―第15回全国大会(2014おおさか大会)を終えて
第15回大会実行委員会 事務局長 古川隆司
去る8月2日(土)・3日(日)に追手門学院大阪城スクエア他にて開催した第15回大会が無事盛会のうちに終えられたことを、参加者・関係者各位、佐々木実行委員長はじめ実行委員をお務め下さった会員各位・当日アルバイトの学生に御礼申し上げたい。
第15回大会は、「子どもと暴力」という大会テーマを掲げ、実行委員会企画であるプレシンポジウム、大会シンポジウム等で本テーマを深めることができた。本テーマは、桜ノ宮高校での体罰・生徒自殺事件をはじめ関西で起こってきた様々な問題への深い関心を全国大会でも共有したい、と実行委員会で議論を重ねた中で生み出せたテーマであるだけに、多くの意見交換や議論を生み出す機会となったことは何よりであった。
プレシンポジウムでは韓国より千宗湖(Chun, Jong-Ho)釜山家庭法院部長判事を招聘し、先駆的な実践についてご講演をいただいた。近年ゲストスピーカーを海外から招聘しているが、本学会が向かい合う司法と福祉の交錯する領域はOECD各国でも共通の課題であり、今回講演頂いた中でも紹介のあった学校での暴力については、日本のスクールソーシャルワークや児童司法・児童福祉にとって様々な示唆を与えて頂けたと思われる。
また大会シンポジウム「子どもの暴力が意味するもの-司法福祉の視座-」では、児童福祉から石澤方英氏(千葉県立生実学校)と前橋信和氏(関西学院大学)、医療から小谷信行氏(松山赤十字病院)、弁護から岩佐嘉彦氏(いぶき法律事務所)のご発題を頂き、本学会が目指すような多面的で実体的なアプローチを考える機会を頂いた。例年同様、発題に対してフロアからも活発な意見や質問を寄せて頂けたことは、主催側として望外の喜びである。また、会場を変えた懇親会にも議論の余熱がそのまま持ち込まれ、参加者の交流が深まったと思われる。素敵な歌声とにぎやかな催し物など、参加者へのもてなしにも懸命に取り組んだ実行委員の思いを汲み取って頂ければ幸いである。また、両日とも弁当の他障害者支援事業所に軽食等の出前販売を実施した。これも実行委員による発案で、参加者が交流できる工夫をできるだけ実現するよう心がけた。
また2日目の自由研究報告と分科会も、様々な研究と実践報告が重ねられた。近年、学会での研究報告の質が問われるようになり、本大会では実行委員会で一定の基準をお示しした。特にトラブルは生じなかったが、学術研究の水準を一層高める上で必要となるため、相互研鑽のためにも相互に意見交換を重ねていきたい。
本大会で新たに取り組んだことが二つある。前掲の自由研究報告の事前チェックと標準の提示と、大会会場におけるパネル展示である。前者は今後学術研究の水準を高めていく上で学会誌編集委員会の動きとも重ね合わせながら引き続き取り組んでいただきたいと考える。また、会場の都合で限られていたものの、パネル展示には本学会に関連する諸団体の活動報告等が4団体参加下さった。いろいろな形で交流の機会となったと思われる。
ともあれ、本学会の対象とする諸課題の広がりは大きく多様な内容が求められていると思われる。大会の企画運営について行き届かぬ点もあったかと思われるが、その点はご寛恕をお願いしたい。
3.―事務局長挨拶および総会報告
村尾泰弘
本年4月から、日本司法福祉学会事務局長を拝命しました立正大学の村尾泰弘と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
はじめに4月以降の新事務局体制について、ご説明申し上げます。会員数の増加等、諸事情の変化により、事務局は委託事務局(国際文献社)と本部事務局(立正大学社会福祉学部村尾研究室)の二元体制となりました。
委託事務局は、国際文献社内に設置されています。会員の入退会の申請受付や会費納入・管理の具体的事務作業を行います。会員の皆様からの、いわば事務上の窓口業務を行うと考えていただいて良いでしょう。一方、本部事務局は、その他、諸々の実質的な学会事務の運営を行います。
本部事務局は、次の4名のスタッフで運営されています。
事務局長は私、村尾泰弘(立正大学社会福祉学部)、会計担当・濱畑芳和(立正大学社会福祉学部)、ニュースレター担当・丸山泰弘(立正大学法学部)、会員動向担当・金子充(立正大学社会福祉学部)の4名です。
新事務局としては、委託事務局を設置したことにより、会員への一斉メール配信などができるようになりました。営利的な要素のない研修会・研究会・講演会のご案内などを会員へ配信しております。配信の依頼があれば、事務局として、当該研修会等が営利性がなく、会員への配信が有益であると判断したものにかぎり、会員へメール配信致します。また、ニュースレターその他、さまざまな情報を学会ホームページに掲示することになりますので、ホームページへのアクセスをよろしくお願い致します。会員の皆様のご理解を賜り、サービス向上に努めていく所存です。
総会報告
- 日時:2014年8月2日16:45~17:30
- 場所:追手門学院大阪城スクエア
- 審議結果および報告事項
- 2015年4月より年会費を7000円とする。
- 今後、ニュースレターの郵送をやめ、学会ホームページで閲覧できるシステムとする(電子化)。
- 学会誌「司法福祉学研究」14号の発行は本年9月上旬とする。
- 2014年度の活動報告
- 2015年度第16回学会大会は、早稲田大学(東京)で開催する。
- 本年度中に、本学会の学術会議協力団体への登録を目指す。また、今後、本学会の一般社団法人化を目指す。
以上。
会費の値上げが決定致しました。また、今回からニュースレターの郵送を止めることになりました。今後の事務局としての大きな課題は、学術会議協力団体への登録と一般社団法人化の推進ということになります。どうぞ会員の皆様のご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
4.―「司法福祉学研究」第15号への投稿のお願い
学会誌編集委員長 藤原正範
本年4月、「司法福祉学研究」編集委員長に就任しました藤原正範です。編集委員会は、私のほか、齋藤知子さん(帝京平成大学)、葛野尋之さん(一橋大学)、須藤明さん(駒沢女子大学)、丸山泰弘さん(立正大学)、村尾泰弘さん(立正大学、学会事務局長)によって構成されています。編集は、引き続き株式会社生活書院にお願いし、社長の高橋淳さんが担当します。
来年8月に「司法福祉学研究」第15号に刊行したいと考えています。研究論文、事例研究、実践報告の投稿をお待ちしています。
原稿は、「16,000字」まで、表題には「英語タイトル」を付記し、「研究論文(原著論文)、事例研究、実践報告のいずれであるか。を明示してください。なお、原稿の作成につきましては、編集規定等を厳守してください。
原稿は、生活書院宛てメールに添付して送付してください。締め切りは、「本年12月20日(土)午後5時」とします。
投稿についてのご質問は藤原(Email)へどうぞ。
5.―会員動向
2014年10月23日現在の組織状況
- 正会員 373名
- 学生会員 26名
- 名誉会員 7名
- 総計 406名