ご挨拶
法と臨床の豊かな協同の創造~学会紹介
日本司法福祉学会は、先人の成果を引き継ぎながら、新しい二十一世紀の課題に取り組もうと、2000年11月に、発足しました。
いま社会福祉の世界では、「権利擁護」という言葉がよく聞かれ、そのための「法整備問題」をどのように考えるかが課題になっています。例えば「児童虐待の防止等に関する法律」の見直しの焦点の一つも、危機状況下での介入に関する「法整備」問題です。然し社会福祉問題に取り組む場合、「法」の力で事態を強制的に変えること(広い意味での「司法」活動-ハード)とその心理・社会的実体に着目して事態緩和に貢献する社会福祉的援助(広い意味での「臨床」活動-ソフト)とが、齟齬無く歩調を合わせて実施されることことが必要です。多くの社会問題、例えば人間の成長発達や家庭生活の安定に関わる問題は、問題の法的評価以前の生きた人間内部の問題が未解決・未緩和のままでは、例え法的に一件落着しても、問題は後に形を変えて再発し、法的解決(規範的解決)の安定性を損なう危険があるからです。
超高齢社会に突入した今日、こうした問題解決の事業は、犯罪・非行問題は勿論、犯罪被害者支援、離婚・扶養・相続問題、高齢者や児童の虐待・介護・後見問題等々へとますます広がって来ています。21世紀の今日、このような問題解決方法は権利擁護事業としても、広義の我が国司法システムを貫いて探求されるものとなるでしょう。
私たちは裁判(審判)とその執行を、「国民の権利実現を目指して、生きた社会的事実としての問題を、実質的に解決する司法的問題解決システム」として構想し、その理念や方法に「司法福祉」と命名しました。此の司法的問題解決システムは、法的実効力によって大きく実体を動かす中心的サブシステムとしての法的・規範的解決システムと、諸社会資源の動員を含めてこれを補完する心理・社会的サブシステム、即ち社会福祉的援助による臨床的・実体的解決(緩和)システムとから成り立ちます。後者は狭義の<司法福祉>業務と呼ぶことが出来るでしょう。
米国でも司法的問題解決過程に於ける社会福祉の方法が活用され、民事・刑事・少年裁判等に於ける心理社会的鑑定はもとより、少年院や刑務所等での社会福祉的処遇や児童保護・夫婦別居・離婚・遺棄・親権制限・家庭内虐待その他の争訟解決への社会福祉援助などへとその業務が発展し、今日では「司法ソシアルワーク学会」も結成され、業務水準の維持発展がはかられています。
本学会理事である守屋克彦 東京経済大学教授は、学会設立総会に於ける記念講演「司法福祉の現代的課題」で、法学者の立場から「司法福祉の学問は、問題解決を適正に行うための法解釈の指針を探求するばかりでなく、その解釈が生かされているかどうかを含めて社会に於ける法の運用を客観的に分析観察する科学的な認識に及ぶものであり、加えて実践的な課題を追究する運動論にも及ぶ」であろうと述べ、今日では、その手法が拡大され「高齢者福祉の分野など援助を要する人々の生活に対する法をめぐる手続きにも当然応用されていく」と語りました。
私たち学会員は、こうした守屋克彦教授が語るような「法と臨床」との豊かな協同によって問題解決を前進させる道の探求を着実に進めていきたいと考えています。
山口 幸男 (日本司法福祉学会初代会長・日本福祉大学名誉教授)